オクラの味

 

 

 オクラの花 オクラのツルリとした味がして清涼なり

 

 

 

                オクラの味

 

 

 もう終わりになった夏野菜。叔母がオクラの花を摘んで採って来た。私はさっと水洗いし、水気を完璧に取り、細かく刻み、オカカをふりかけ、生醤油をひと垂らし。オクラと同じような食感がしてぬめっていたが、オクラより新しい新鮮な味が驚きだ。須藤酒造の「花薫光」の冷酒を少しずつ飲む。ワインのような酒と、軽やかなオクラの花とマッチして、そしてこの味は僕を有頂天にした。虜にしたと言ってもいい。オクラの花を作る人と、鎌倉時代から作る蔵元の冷酒とコラボレーションし、まさに頂点にいった瞬間だった。私は、妻に同じように勧めた。妻はオクラの花より、お酒の美味しさに感動していた。あああオクラの花はどうなってしまうのか。箸の先端だけにオクラの花をつけ、ちょっとだけ食べる妻。これって茹でていないんだよ、生のまま調理してみたんだよと言った瞬間、妻の見る目が変わった。こんなに遅くまで咲いてくれたオクラの花、堪能すべきねと言ったっきり、静かに酒の時間と、オクラの風味が広がった。

 私は確信する。美味しいものは皆冒険心と共にあったことを。こんなに美味しいものがあるなんて、恐らく奇跡に近い。二人で、お酒を飲み、たった一つ、オクラの花の味を楽しんだ。あの暑い夏の終わりに、僕たちは何気なく夏が過ぎ去っていった日々を思い出していた。旅もせず、ひたすらイクメンをした日々のことも。妻は大きな宿題を抱えて頑張ったし、僕は完璧なイクメンにはほど遠いが、でもやるだけのことはやったつもりである。でもやっぱり妻は母親でもある。黙り込んで、せっせとキッチンで何かを創り始めた。蕎麦の黒い(そば粉)生地でクレープを焼き、山羊バターをたっぷり乗せ、夏場採っておいたスグリやブルーベリーをただ解凍だけしてそこに乗せ、クレープに包んだ。仄かに甘い香り立つこの素朴なクレープ、僕は何度も舌鼓を打った。生地にぬめりがあったことから、どうやら生地にさえも、オクラの花を僅かに練り込んで入れたのだろう。彼女は多くは出来ないが、でもそれなりに一所懸命なのである。また今週火曜日にあるBSハイビジョン放送「愛と胃袋」を楽しみにしていよう。初回は井上荒野さんのイタリア・ピエモンテ州ブリオッカ村を中心とした食べ物と人情と人間模様。それを取材し、荒野さんらしい上質な珠玉のストーリーにまで綴ってあった。先週二回目は森絵都さんの出番で、フランス北西部ブルターニュ県カラッテック村を中心とした牡蠣や食べ物のことや、素敵にアレンジする一級のシェフのことや、そして最後には絵都さんらしい素敵な短編小品に仕上げられていた。今夜は角田光代さんのスペイン・バスク地方を旅する。バルにも立ち寄るという角田さんはどんな美しい作品を紡いでくれるのだろう。来週は江国香織さん。ポルトガル・アレンテージョを旅し、修道院特製のお菓子が出てきそうである。食べることは生きることであり、生きることは愛することに他ならない。それにしてもこの企画には脱帽するしかない素晴らしさがある。

 美食とは、食材や料理ではなく、第一級に生きるための反証なのであろう。

 

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