歳暮と賀状

 

 

                                                            冬濤 

 

 

歳暮と賀状 

 

 

 

歳暮

 

紅葉が終わり 殆どの風景が静まり返って閑散としているのに 人間の社会は師走になると 妙に喧しくなる

特に日本人の暮れは忙しい 各デパートでは早々と歳末大売出しで 大晦日まで休みなしで ご苦労なことだ

店舗の隅々まで大袈裟に飾り立て おまけに日本人の信仰と関係がないクリスマスが近く クリスマス商戦も一層激しくなる

こう言う風に騒がしくなる要因は 日本人の伝統的な生活習慣に最も関与している

一年の出来事や 特にお金の勘定に一切決着をつけたいとの思いがあるからで 

掛取(かけどり)とか掛乞(かけごい)と言う習慣が 何らかの形で残っているからではなかろうか

現在では月々の月末清算に移行しているのがほとんどであるが 元は盆・暮れの二回だけの清算であった

中には年末に一回のみの決済の方法もあったようで 売り掛け金を集めて廻らなければならなかった

通常の回収は掛取で 年末大晦日零時まで掛かって必死に何とか回収するのを掛乞と言うわけだ

払う方は払う方で 何とか正月まで持ち越さないでいると大変なことになり 

何とか済めば ああやれやれと言うことになり 晴れてお正月さまを迎えられる

 

歳暮と言う考え方も同様で この一年の交誼に対し感謝する意味で 得意先・上司・先輩・親戚・知人など

主に目上の人に対して 贈り物をし 感謝の意を表現する 交誼の程度で中身は色々であろう

古くはお米や魚が多かった トシ神さまにお供えをするのである その用途に使われるような配慮があった

 

                                                         北海道産 荒巻鮭

 

日本人の一般には 確たる信仰のもとにこうした生活習慣があったわけではない

キリスト教・回教・仏教などによる習慣ではなく 八百万の神々を感じて生きて来た民族であるから

それだけに 逆に身近に様々な神を感じながら 生きて来られた日本人の知恵と特性の証拠だろうと思う

従ってこの歳暮も この一年間の神への感謝が目上の方に対し 表敬し贈答する形だと見るべきである

つまり目上の人のその奥に 日本人の神々を感じていたからこそ そうした習慣が出来たのであって

そうすることによって より一層人と人とのつながりが緊密になって行くのである

 

この習慣はやがて目上の人に限らなくなって来る 友人や使用人に対しても 一年の労をねぎらう意図で

それなりの贈り物をすることになり 商店や銀行などは一般客にカレンダーや手ぬぐいを配ったりする

宣伝の意味ばかりではなく 一年の感謝の記しとして 感謝の意識が強かったのである

正式には『歳暮祝い』と呼ばれていたが 略して『歳暮』になった これに対して返礼の意味で 『歳暮返し』もあり

歳暮を受け取った親方は その返礼としてお酒の一升瓶でもあげると言った具合だが それも労をねぎらう意味もあったからだ

初めて嫁を迎えた家からは 嫁の実家に対し贈り物をする習慣もあった それを『初歳暮』と呼ばれている

歳暮を受け取ったら せめて御礼状ぐらい出さなければならないが 主人が忙しいと理由でそのままになるケースが最近の実情だ

主人が忙しければ 奥さまが主人名を書き その下に「内」と付け加えて 礼状ぐらいは当然ではなかろうか

                                                       徳島・香川の「和三盆」

 

最近では益々礼儀作法が酷くなり ご機嫌取りとか 虚礼に陥っているケースが多く見られるが 虚礼は如何なものか

歳暮本来の意味から言って 社会生活を営む意味で潤滑油となるので その役割もあるのだろうし

歳暮の贈り物には 贈られる方のお顔を想像しながら 夏の中元よりやや重いそれなりの吟味をする必要もあろう

 

 

 

年始

 

年末のご挨拶が終わると 年が明け 新年のお祝いと言うことになる どこの国でもあるが 特に日本の場合

トシ神さまをお迎えし トシの神へ食物を奉げ トシ神さまとともに神人饗応(お祭りの原点)として そのお供えを一緒に食べるのが普通である

以上が正月三が日の基本的な考え方で ところが戦前は一家の資産は長男が継ぐことになっていたので 現在とはやや違っている

殆ど大家族制であり 親類縁者が集まり みなうち揃って大勢で新年を祝うのが 一般的であった

時代を遡ると より一層顕著で 臣下のものたちや領民たちが主家に新年の挨拶に出向き 主家から振る舞いを受けていたようである

逆に 臣下のものから招待を受けて 臣下の家で正月祝いをする場合もあったようだ

徳川幕府時代には 正月一日は諸代大名が 二日目は外様大名が 三日目は各大名の嫡子たちが 江戸城に参内し

手土産を持参し 祝詞を述べ それから鶴の吸い物を振る舞われたようである

 

このように封建主義の時代には上下関係が厳しく 又武士だけではなく 農・工・商それぞれが主家への挨拶があった

但し次第に年始客が多くなって来ると 習慣は必要に応じて簡略化され 『門礼』と言って 玄関先で礼を述べて帰る客も多くなった

玄関先で礼を受けることを 『礼者受け』と言っていたようであるが 又一方では商店ならば『礼帳』を出して置いて 記帳だけする方法もあった

お祝いをする客たちが多くなったからであって それは現代にも通じていて 会社や役所などでは「名刺受け」なるものが登場するようになった

 

又挨拶に行く箇所は多くなって 平社員であれば 社長・重役・部長・課長・係長などの上司へ廻ると言うこともおきて来た

或いは同僚や友人関係にも挨拶が多くなって 所謂『挨拶廻り』とか『年始廻り』とか言われるような事態が多くなって来たが

さぁてどうだろう ネット社会になってネットでご挨拶が多くなった現代では 手紙が極端に廃れるようなもので 果たして

面対で挨拶する習慣は 急激に少なくなって来ているのではないだろうか 何もかも簡略化されてどこまで行きつくと言うのか

何だかとても心配な状況ではある 会社だって 大きな会社になれば 役員だけでも相当な数で 担当の上司にしか出来ないのだろう

 

 

 

賀状

 

明治の中ごろになると 挨拶すべきところへ態々出向かないで 名刺を封筒に入れて送る風習が出来て来た

郵便制度が発達し 現在のような状況ではないにしても 礼を逸しない程度で 大変珍しく 新しい習慣となった

これが更に発達し 葉書による年賀状が出来るようになり 郵政の後押しもあって 次第にそれが慣行化されて行った

今では 郵政でお年玉つきになり 年賀状が最も普及された生活習慣となって行ったのである

 

然しこれは必ずしも日本的習慣でもなさそうである 文明国に共通した習慣が多数あるからである

十五世紀のドイツでは 幼児のキリストの絵とおめでとうの文字を組み合わせて銅版の版画を作って送ったのが賀状の最初と言われている

そして十八世紀には 自分の名刺に絵を描いて送る習慣になり ドイツ・オーストリア・フランスに普及したと伝えられている

更に十九世紀の後半になると イギリス・アメリカなどでは クリスマス・カードを送るようになり そこに新年のご挨拶も入るようになって行った

クリスマスと新年を一緒に祝う形式だが 明治期の日本には こうした形式が入っていなかったとは言い切れまい

さすがに日本では一般的にはクリスマスと新年をゴチャ混ぜにしてないが 年賀状とともに 世界と共通の形式が出来上がったとも言えるだろう

 

 

 

虚礼でないために

 

誠意のない上辺だけの礼儀 無用の礼儀などは 虚礼と言っていい

日本人の年末年始の挨拶として贈り物を送ったり 賀状を送ったりするのが日本的ではあるけれど

日本人独特の生活習慣の感性を念頭に置いてなされるべき行為とそれを積極的に評価する態度で行えば虚礼には当たらない

 

日本は世界で唯一の多神教の文明国家とされているが 我々一人一人には そう言う観念は先ずない

それにも関わらず 西洋のように完全な個人主義になり切れないのは よきにつけ悪しきにつけ

歳暮と賀状の習慣がささやかに 日本人たる誇りの一端を担っているのであろうか

益々ネット社会になり 様々な変容を遂げているが 日本人のこれまで来た美徳だけは忘れてならないものであろう

それにしても メンドイからとか 何か非常に横着になって来ている昨今が気になって仕方がないのである

 

                                                                          香川の特産「押し切り寿司」                                                            

                      

                                                                       (2004/11/30)

 

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