一途な愛に応えて

 

 

 

一途な愛に応えて

 

この銅像は 十和田湖畔に立つ高村光太郎の作『乙女の祈り』像である

 

光太郎は どんなにか智恵子を愛していただろうか

46歳から狂い出した智恵子を 本当によく面倒を見た

自分の彫刻のこともあったろう 翻訳や原稿のこともあったろう 生活のことだって楽だったわけではなかった

鬱憤だってあっただろうが 愚痴の一つも言うのではなく 「智恵さんを僕はちっとも分かっていなかったんだ」

自責の念をトコトン強め 自分を追い込み あの第二次大戦が終わった直後 岩手の山の中に隠遁生活をした

 

ほとんどの芸術家は 戦地に行きたくないが為 戦争を肯定した事実もあった 山田耕筰だって サトーハチローだってそう

あの藤田嗣治も 軍部から請われて 戦争画を描いた その後石持て追われる如くパリへ帰り 決して日本に戻らなかったが

光太郎も他の芸術家と同じように肯定した 否せざるを得なかった 愛妻・智恵子が死んだのは大戦前夜で

何もかも哀しみのうちにあったのだろう そんな戦争を加担した反省もなかったわけではなかった

 

結婚して20年後昭和8年 智恵子48歳にして 狂った智恵子を自分の戸籍に初めて入籍をさせた

自分がもし先に死ぬようなことがあったら 残された智恵さんが可哀想だからと言うただそれだけの理由であった

それまで二人は ありきたりな結婚を拒否 入籍など古いと言っては 両人とも嫌がっていたからだ

 

それから智恵子52歳 昭和13年10月5日に粟粒性肺結核の併発と発作で 南ゼームス坂病院で亡くなった

失意の光太郎は 荒廃した東京を後に 終戦の前年に 逃げるようにして 宮沢賢治を頼って岩手に行き

山口部落で独り山村生活 独立独歩で生活していたが 光太郎自身も既に肺を患っていた

慣れない手つきで ジャガ芋などを栽培しながら 多くの原稿を書き 彫刻どころではなかった

 

                                         『元素智恵子』

                                       智恵子はすでに元素にかへった。

                                       わたくしは心霊獨存の理を信じない

                                       智恵子はしかも實存する

                                       智恵子はわたくしの肉に居る

                                       智恵子はわたくしに密着し、

                                       わたくしの細胞に燐火を燃やし、

                                       わたくしと戯れ、

                                       わたくしをたたき、

                                       わたくしを老いぼれの餌食にさせない。

                                       精神とは肉體の別の名だ。

                                       わたくしの肉にいる智恵子は、

                                       そのままわたくしの精神の極北。

                                       智恵子はこよなき審判者であり、

                                       うちに智恵子の睡る時わたくしは過ち、

                                       耳に智恵子の聲をきく時わたくしは正しい。

                                       智恵子はただ嘻々としてとびはね、

                                       わたくしの全存在をかけめぐる。

                                       元素智恵子は今でもなほ、

                                       わたくしの肉に居てわたくしに笑ふ。

 

それから7年後 ついに光太郎は 智恵子をあのまま朽ちて行かせてはならないと 光太郎は最期の覚悟をする

 

                                          『メトロポオル』

                                       智恵子が憧れてゐた深い自然の眞只中に

                                       運命の曲折はわたくしを叩きこんだ。

                                       運命は生きた智恵子を都會で殺し、

                                       都會の子であるわたくしをここに置く。

                                       岩手の山は荒々しく美しくまじりけなく、

                                       わたくしを圍んで假借しない。

                                       虚偽と遊惰とはここの土壌に生存できず、

                                       わたくしは自然のやうに一刻を爭ひ、

                                       ただ全裸を投げて前進する。

                                       智恵子は死んでよみがえり、

                                       わたくしの肉に宿ってここに生き、

                                       かくの如き山川草木にまみれてよろこぶ。

                                       變幻きはまりない宇宙の現象、

                                       轉變かぎりない世代の起伏、

                                       それをみんな智恵子がうけとめ、

                                       それをわたくしが觸知する。

                                       わたくしの心は賑ひ、

                                       山林孤棲と人のいふ

                                       小さな圍爐裏に居て

                                       ここを地上のメトロポオルとひとり思ふ。

 

三畳一間の小さな山小屋で 青森県の依頼ではあったものの 永遠に生きる智恵子を造形したかった そしてミニ制作するや

焼失していた自分のアトリエではなく 東京の友人のアトリエに帰って 必死の形相をしてこの像を一年で 実物大を完成させ

翌年この銅像を この十和田湖畔に建て 元素の智恵子がいることを観とどけ

その間ついに肺病が重くなり とうとうチカラ尽き 光太郎も 息を引き取ってしまった

この乙女像のモデルとは 他でもない元素・智恵子自身であることは言うまでもない

 

何千年でも何万年でも そこに立っていろと 光太郎の切なる願いのもとに 

エネルギーが充満し爆発し溢れるような智恵子像が すっくと経っている

 

現在二人は あの染井吉野が創られた櫻の発祥の地 東京・駒込の霊園で 仲良く眠っている

この二人には来世と言うものが存在しないのだろう 元素智恵子と元素光太郎が一緒なのだから

                                                                                                                     (2004/9/28  十和田湖にて)

                                                     上記二葉とも初秋の奥入瀬渓谷

 

 

先月25日の三島由紀夫忌の日、亡き主人の創作劇『山居独考~智恵子抄』(一人芝居)が、或る劇団のアトリエ公演で上演されました。

そのうち主人の遺作多数がメジャーになりましたら、皆さまのもとに上演しに行きたいと、こころから念じております。 (庵の軒下 M)

 

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