北国の恋

                                                   青森県木造町 雪の林檎畑

 

 

   北国からの便り

 

 

 北国に住む友人から 封書で連絡があった 

永年に渡って恋し続けた人と ようやく添遂げると言う

以前確か 彼女は人妻だったような気がする 

手紙の裏を見ると間違いなく彼女の苗字も一緒だ 

来月結婚するので 式には是非来て欲しい旨を長々と書いてあった 

そうか 又独り逝ったのか 私はそう感じ取って 再び自室に引き篭もった 

この処オーバードラッグの所為か 少々鬱気味であるが 

このことで一層鬱に拍車が掛かるわけでもあるまい

 

 こんな寒い日 彼の誘いで 昼間から ジャッパ汁とかイチゴ汁とかケの汁とか 

そんなような地元の料理を食べ 『田酒』をあおりながら話していた 

座興が盛り上がって 彼は得意の笛を取り出し 

お山参詣(岩木山神社の晩夏の祭礼)で吹かれる笛を演奏してくれた 

やや長い竹笛で 曲調は極めて哀調を帯びていた 

その時だった 色白の美人がやって来て 演奏中ながら そっと彼の傍に座った 

演奏が終わって 初めて紹介するけれど これがオレの言う彼女だと言う 

以前から聞いていた彼女とはこの人だったのかと ちらちらと横顔を見た 

美人である 酒も廻って いい気持ちになった時 相性を観てくれと言う 

何度も辞退したが 彼女の懇願する顔を見て 仕方なく鑑定に入った 

すると この上ないぐらい抜群の相性で 普通年回りだけ合うはあるが 

月日廻りまでぴったりの二人で 類例がないくらいの相性であった 

私は何の考えもなく そのことをきっぱりと告げた

 

 処がどうも様子が違うのである 

それを境に 二人はぴたりと口を閉ざし 彼女は今にも泣き出しそうになったのである 

だから言わないこっちゃない 鑑定すればいいものではないと 

私は怪訝そうな顔をして 事態の推移を待っていた 

それから間もなくだったろうか 彼女は雪の降りしきる外に飛び出して行ってしまったのは 

しばらくして彼は呟くように言った 彼女は人妻であると

おいおい早くそれを言ってくれよである

 

  去年私は 大手術を受けた 心臓の僧房弁狭窄症による弁膜の形成術である 

死を覚悟していた せめて白神山地のブナの樹の力を貰いたいと 

医者に 緊急性があるにも関わらず懇願して 旅に行かせて貰った 

途中で死んでもいいとさえ思って旅に発った 

連れの者も一緒に西目屋村から入り 暗門の瀧まで何とか歩いた 

そこまでが精一杯だった ブナの原生林 フカフカした腐葉土 啄木鳥の叩く音 

私は眼に焼き付けるだけ必死に見たように思う 

その帰り 青森港に隣接するアスパムで 少量のお土産などを買って 

直ぐ特急に乗るべく足早に出ようとした時 『こぎん刺し』の製品を売っているコーナーから 鋭い視線を感じた 

何気なく不図見ると 何と友人の例の彼女がいた 津軽独特の刺繍『こぎん』をしていたのか 

私は挨拶をして 直ぐ立ち去ろうとした時 彼女は 酒袋に三縞模様の『こぎん』を刺した

瀟洒な風合いの信玄袋を持って来て 私に無理矢理に渡した 

お金を受け取ろうとしない 丁重にお礼を言う暇もなかった 

そしてその数日後私は大手術を受けた

 

  去年暮れだったか 彼から長い封書が届いた 

中には彼女との経緯 夫にはばれずに何年付き合って来たか 相手の夫はどんなオトコだったか 

酒を飲んでからのDVが如何に激しかったか 子供はいるか どんな別れ方をしようとしているかとか 

そんなこんなを長々と書いて寄越した 然し嫌味は殆ど見られなかった 淡々と書かれてあったからだ 

最後に何時かきっと結婚したいと結ばれていた 私はその手紙に返事を出さずじまいだったかも知れない 

ここではその事情を細々と書くまい 但し女性は未だに解放されていないのではないか 

文中それだけの文言が 妙に頭に引っ掛かって仕方がなかったが・・・・・ 

それぞれの男女関係に 様々な出逢いや生き様はあろう いいか悪いか 一概に言える立場でもない 

そう言うべきでもあるまい いい大人同士なのだから 新しい門出を祝ってやりたいのは山々だが 

この体調では 出掛けて行くことも出来まい ましてや私が恋のQP役だったわけでもあるまいて

ただ何時か彼に逢った時 笛吹き童子と言われ誉れ高い彼の笛の音を 

是非聞いてみたいものだ どう音が変ったのだろうか 或いは変らないものだろうか 

あの哀調に変化があるのだろうか 私達のお付き合いは 和笛でしかないのだから

 

 今日は 世間では聖ヴァレンタイン・ディと言って 男性が女性からチョコを戴く日だと言う 

どうせお菓子屋さんの喧伝で広まったに違いない ひねくれものの私は 

ここ十数年女子社員のチョコや銀座のお姉様がたや全国においでの様々な女将からのチョコも 

一切受け取っていない 来たとしても会社止まりにしてある 

少々残酷であるが それを社員が内々に分けてしまう 

無論相手様には 礼状は秘書課から欠かさない筈だ 

負け惜しみではない 敢えて欲しいとは想わない 縁がないままでいい 

川端康成の『雪国』に出て来る主人公・島村のような 無為な孤独でいるのがいいのである 

そして少なくとも身体障害者となった今 私は早くその称号を返却したい一念だけがある 

万が一に戴くとしても 健康を取り戻してから たった一人から戴きたいものだと勝手に決めている 

今日 当家の年老いたお手伝いさんから ちょっぴり高価そうな『義理チョコ』なるものを頂いてはある 

CORNE Port・Royal Chocolatier この一箱だけである

 

広告
カテゴリー: 旅行 パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中