農民・暮らしの中の能 王祇祭を通じて

 

園部澄氏写真 『黒川能』より

 
 
 
 
 
 
黒川能の凄さと美しさと
 
  
 
山形県鶴岡市の在郷 櫛引町黒川地区に この地区の鎮守・春日神社がある
 
そこで 天地も凍る 毎年2月1日に王祇祭と言うこの地区で最も重要な祭りがあり
 
古い形式の能や狂言などが 神事能として 奉納され 同時に伝承されて来た
 
演ずるのは すべて農民であり 頑なにそれを守っていた
 
 
 
五百年の永きに渡って伝承されて来たこの能には 
 
現在 中央の五流に見られない古い形式が
 
数多く残っており 如何に春日神社とともに 歩んで来たかが知れよう
 
春日神社の氏子240戸 能役者と囃し方は 子供から長老まで160人
 
能面230点 能装束400点 能の演目540番 狂言50番を数え
 
昭和51年に 国の重要無形民俗文化財に指定された一大民俗芸能である
 
 
 
鎮守の神・春日神社に年4回の例祭があり それぞれ神事能として黒川能が行われる
 
 中でも最も重要な例大祭は 地吹雪吹き荒れる2月1日『王祇祭』と言い
 
そこで挙行される能が 黒川能と呼ばれている最大規模の祭りである
 
 
 
それを見る為に 現在は一年前からの予約制になっているが
 
私が行った時代は 演能の場所に 未だ一般客は入れなかったのである
 
吹き荒ぶ雪の真っ只中で せめて酒で暖を取りながら
 
完全な防寒着を着て 更に頬被りをして 当屋の窓越しに
 
ゆらゆらと揺らめく 蝋燭の灯りを頼りに 覗いたものであった
 
 
 
2月1日未明 春日神社の神霊が宿る『王祇様』(3本の木に白布で出来たご神体)を
 
上座・下座の当屋(とうや=当番の家 60年1度廻って来る)に 初々しくお迎えし
 
座衆一堂に会して 座狩(ざかり=総点呼)があって 賑やかな振る舞いの後
 
夕刻から 稚児による『大地踏』(おおじふみ=お水取りの達陀<ダッタン>に通じる?)で
 
 黒川能が始まる その後『式三番』(翁や三番叟など)があって
 
それから 夜を徹して 能5番 狂言4番が 太い和蝋燭だけの灯りの中で
 
妖しく 時に艶かしく そして荘厳に演じられるのである
 
 
 
当屋での能が終り 翌2日には ご神体が春日神社にお還りになる
 
再び神前で 上座下座の両座が 脇能(神を主人公にしたおめでたい能)を
 
一番ずつ演じ その後『大地踏』『式三番』が 両座立会いの元に行われる
 
春日神社境内に ご神体を手に駆け上がる『尋常事』(競走事)など
 
様々な神事を織り込みながら 王祇祭は夕刻まで及ぶ
 
ご神体の衣布は 翌年の当屋に授けられ
 
又新たな一年が始まる
 
 
 
王祇祭と黒川能は切っても切れない関係にあり 神事能として演じられて来た
 
それが幸いしたのであろう 古色蒼然として 今に引き継がれる事になったのである
 
こうして王祇祭が挙行され 黒川の人々の生活は この祭りを中心にして
 
すべてのサイクルが決まっている 素晴らしい伝承であろう
 
 
 
ただ一つ皆さんに分かりづらいことがある 
 
それは謡いが庄内訛りの言葉で聞き辛いからである
 
逆にそれが新鮮にも写るが 慣れないと 苦労する
 
 
 
通常 鬘(かつら)~鬘帯(かつらおび)~能面の順序で着けるが
 
黒川では 鬘をした後 直ぐに能面を着け 面の上から 鬘帯をつけて
 
一層迫力に富む演出がなされている 至極リアルなのである
 
 
 
60年に1度当たる当屋とは大変なものである
 
順番で 廻って来る当屋では 内壁をすべて取り払い
 
その屋内に 能舞台を作り 客席も作ると言うのだから
 
因みに結婚式なら 2~3回も出せそうな出費が嵩む
 
当屋では 振る舞いも出されているから
 
それこそ大変なことな事である
 
 
 
近年黒川能会館が出来 王祇祭や大地踏の様子が手に取るように
 
再現されていて 興味が尽きない 益々素晴らしい伝承になるであろう
 
農民による農民の為の芸能として 最も立派に伝承されているのだ
 
 
 
黒川能の泣きたくなるような美しさは その素朴な至芸にあり
 
ご神事の永き伝承によってもたらされた 稀に見る古式にあって
 
農民の強靭な強さと柔らかさの中に 密かな凄みが隠されている
 
 
 
それが当屋の中で 我々も見れるようにネットでの受付があると言う
 
今からは御覧にはなれないが 毎年4月から11月まで 受け付けられている
 
当屋での振る舞いも出されると言うから 私が見た時には 夢のような話である
 
吹き曝しの雪が シンシンと降る中を見学させて戴いたものであった
  
 
 
                
口絵 文化勲章受賞者 森田茂 
       油彩『黒川能・熊野』
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