『寅次郎相合い傘』と浅草の役者たち

 
                                                                                                       在りし日の亡き渥美清 
 
 
 
  < 寅次郎さん あ~たは なんでリリィさんと結婚しなかったのぉ >
 
 言わずと知れた寅さんの映画は 結構観た 中でも好きだったのは浅丘ルリ子がマドンナで出て来る映画が好きだ 取り分け秀逸なのは『寅次郎相合い傘』であろうか 先週BSで放送されたばかりである さくらもヒロシもおいちゃんもおばちゃんも みんなリリィとの結婚に強く賛成する リリィもその気がもともとあって みんなの意見に承諾する そこへひょっこり寅さんが帰って来る みんなは寅さん リリィさんが結婚してもいいって 言ってくれたよと 素直に歓び勇んで言う 藪から棒に言われた寅さんは 「おいっ リリィ こっち来い」と半分怒鳴って 呼び寄せる 「リリィ それって 本当かい 冗談なんだろう」とトーンを下げて聞く するとしばら~く間を置いてから リリィが応える 「ああ そうだよ 冗談だよ」 リリィは雨の中を出て行く 寅は追い駆けて行くことをしなかった (かく言う私も 似たような部分があって 自分でもいらいらする時があるが・・・)
 
 すれ違いと言えば それで収まるが 寅さんのストイックな性格を そのまま表現していて 可笑しいし 泣かせる場面でもある 寅さんがもし結婚するんなら 世慣れていて 向こうっ気が強くて ポンポンと啖呵が切れて アタマがよくて 貧乏をモノともしなくて 下手糞で売れない場末の歌手リリィが最もよく似合っていると ずっと私は思っていた 全49作中マドンナ役で都合4回も出たのは 浅丘ルリ子ただ一人であったから 山田監督としても 何とかしたかったのだろうかなぁ 最初は『寅次郎忘れ名草』で 間もなくこの『寅次郎相合い傘』があり 20年後撮ったのが『寅次郎紅の花』 続いて 最期のシリーズで 阪神淡路大震災のボランティアで活躍する『寅次郎ハイビスカスの花(特別篇)』まで シリーズが終了し 渥美清が亡くなる 亡くなったから 終了したのか まぁどっちでもいいが 山田監督の思い入れぶりが このリリィと言うキャラクターに 目一杯感じているに相違ない (後藤久美子も4作品に出ているが 満男の恋人役なので 今回の話題ではないから外しておく)
 
 ついでで申し訳ないが 妹さくらの倍賞千恵子 おいちゃん役の森川信 おばちゃん役の三崎千恵子 ヒロシ役の前田吟 おぜん様役の笠智衆 印刷工場の社長タコ役の太宰久雄 その他大勢の出演者に 深く感謝申し上げたいが 随分多くの方が逝ってしまわれた おいちゃん役2番手3番手も もうこの世ではいない 淋しい限りである 篠原靖治さんと言う方で 最晩年の渥美さんの秘書をやっていた方が『渥美清 晩節、その愛と死』(詳伝社刊)を出版している 満身創痍でも最期までストイックで 映画に出続けた渥美さんが描かれている 早いものであの死から もう9年になろうとしている
 
 
 処で この渥美清はどんなところから出て来たか 余り知られていない 今日の直ぐにテレビで大活躍をする何も面白みのない芸人が多い中で 私は浅草に 強く深い郷愁を感じて堪らない 上方では吉本興業と言う立派な会社が 若手を育てているが 関東ではそんな大きな組織はどこにもない 然し確実にここからと言う出身場所がある 浅草六区のストリップ小屋なのだ 渥美清もここの専属コメディアンであった
 
 今年亡くなった当社の役員で 僕の育ての親になるヤスさんを ご存知の方も多いでしょう そしてヤスさんはムカシは 日本橋にあった席亭の ご子息であったこともご存知でしょう そんな関係で 私は関東のお笑い芸人達には多少の事情通であるが そのほとんどのコメディアン達は 浅草六区育ちなのである 演芸場に最初から出られるわけもなく ストリップ劇場のフランス座やロック座の座付けコメディアンとして 舞台に上がって修行して鍛える そんな人達は キラ星の如く大勢いて 数え上げたらキリがないくらいである 古くは榎本健一 東八郎 由利徹 八波むと志 堺駿二 佐山俊二 関敬六 長門勇 伴淳三郎 萩本欽一 柳家金語楼 南利明 森川信 三波伸介 毒蝮三太夫 ビートたけし 伊東四郎 大宮敏光 古川緑波 レオナルド熊などと 数え切れないのだ ストリップは女性の裸を観に来るところだ 幕間に 間狂言のようにおかしな漫談やコミカルな芸をする 観客は「お~~い 下手くそぉ!引っ込めぇ!オトコを観に来たんじゃねぇぞぉ 金返せぇ!」って 時には 罵詈罵倒されながら 演技の勉強をさせて貰う 受け取る給金は僅かなものでしかない それでも明日に向って 映画俳優か関東漫才を目指して頑張る 涙なくして 語れない部分ばかりである そして貧困ゆえの ストイックな生き方を習得せざるを得なかった
 
 かく言う私は ストリップなるものを客席で見ていない 楽屋を ヤスさんと一緒に訪ねただけであるが 「今日の客は嫌ねぇ しんねりしてて むっつりスケベで 好きじゃないわぁ 運動会みたく やんやの喝采じゃないとねぇ 馬っ鹿みたいじゃない 私たちって!」と吐き捨てるように放った踊り子の一言を 強烈に覚えている あの時も 未だテレビには出ていないが 若手芸人が必死な形相で演技し終わって 帰って来たのだった この芸人達も 余程やりづらかったようで 辟易してる風だ そんな裏側を どうしてヤスさんは平然と 私に見せたのであろうか 生きて行く原点を知りなさいと言うことだろうか
 
 浅草には そんな役者さんだけではない ストリップ小屋とは 直結はしてないが 古くは河竹黙阿弥から 何と平賀源内もいたし 石川啄木や樋口一葉や江戸川乱歩や池波正太郎や ストリップ嬢を可愛がった永井荷風も サトーハチローもいた 永六輔や小沢昭一もいた そしてあの井上ひさしまで 多くの文人や作家がぞろぞろと この界隈に出没していたし 北島三郎を始めとして 藤原義衛や田谷力三などのオペラ歌手に到るまで大勢いた
 
 オンナ剣劇として名を馳せた浅香光代もいる 松島詩子はオペラで名を馳せた バイプレーヤーとして 清川虹子や沢村貞子や望月優子もいた 有名なところでは水の江滝子は 松竹歌劇団にいた 三浦布美子なども 大勢がこの界隈を賑わしていたのだ 勿論落語の席亭もあって 関東の落語家は ほとんどここの出身と言っても過言ではない
 
 ↑ 浅草出身紳士録が載っています
 
 喜劇で大活躍した人達は例外なく 浅草六区の出身者で占められている 食うや食わずで 芸の道を学んだ 渥美清と何度か逢ったことがある 礼儀作法の五月蝿い人で きちんとした人であった ストリップで鍛えただけのことはある 港で春川ますみと言うストリップ嬢と出逢う 「嫌になっちゃうなぁ」と春川が愚痴ると 図らずも寅さんが声を掛ける 「姉さんの裸を観に来たんじゃねぇ 芸を観に来たのよ」と慰める場面があった 多分渥美のアドリブだったに違いない
 
 ストリップの人達は まともな人が多く きちんと結婚してる子が多い 秋サンマを食べたくなると 楽屋でサンマを焼いたり 子供をあやしているから 生活臭がプンプンしていると言うが こと舞台に上がるとなると 途端に張り切ってしまう 劇作家に 『ブンナよ 木から降りて来い』の小松幹生と言う気鋭の作家がいるが 彼は大學に入る以前は 警視庁のお廻りで ストリップ小屋の見廻りをしたことがあると語っていた 時代が時代だから 予め行くからと予告して行くのに ついサーヴィスをしちゃうから 逮捕するしかなくなると言う 可笑しくて仕方がない そんな楽屋にいて 修行中の芸人は 人間としての最低の部分をよく観察して 大きく育って行くのだろう 『菊次郎とさき』で著名な北野タケシは 映画監督として 最早日本の代表的な監督となった 要するに辛酸を舐める苦労をして来た人達ばかりなのだ 
 
 今 喜劇出身と言われ出ている多くのテレビ向けバラエティ芸人は 粗製濫造されていて ちっともおもしろくない 何の苦労も知らないばかりか 礼儀も知らない 礼儀を失するのを ネタにしている子も いないわけではない
 
 ヤスさんの推薦で 渥美清と話す機会が多かったが 若造の私は 怖くて 軽い調子で近寄れなかった それでも偶に愛想を言われて泣き笑い 本人が大切にしていた万年筆を頂いている 柴又と小諸に 寅さんの記念館があるらしいが なまなましくて 未だに行っていない そして彼は最期亡くなった後も 大騒ぎはしないでくれと言い残し 静かに逝った 又学生時代 分厚いチャーリー・チャプリンの自伝を 原書で全部読み終え 何度泣かされたことだろうか 『ライムライト』が一番好きな映画の一つだ 素晴らしい人であった レ・マン湖畔に建つ彼のお墓に お参りをしたことがあった 今や国内外で 喜劇が 圧倒的に少なくなってしまった だが喜劇にこそ本当の哀しみと人間臭さを見せてくれるようでならない そう言えば 父のフィルムギャラリーに ジェリー・ルイスがあったような記憶があるが 彼はどうしたんだろうか バスター・キートンの無声映画も面白かった 懐かしい父のフィルムギャラリーには 数多くの喜劇があったことを忘れてはいない 
 
 涙の分だけ 笑いがあると言うことだろうか
 
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