映画『初恋のきた道』

 素晴らしい映画にあたると トンでもなくうれしくなります 5年前の映画ですが 中国の映画『初恋のきた道』はその一つです 御許しを戴いて書かせて下さりませ 今や中国NO1の監督チャン・イーモアが指揮を執り そして主演はチャン・ツィイーと来れば 勿論期待されるむきが多いはずですが マイナーな劇場でしか上映されなかった経緯もあって 割りとご存知でない方が多いのではと思われ 機会がありましたら 是非御覧戴きたく

 

 

 

 <『初恋のきた道』・ストーリー>

 寒村に住む父親が亡くなり 急遽息子が自分の村に帰る吹雪の場面から始まります 既に父親は町の病院で亡くなっていました 村長は 父の遺体を運ぶのに トラクターで運びたいと言うのですが 母親は頑としてそれを納得しません 自分達の手で自宅まで運んであげたいと言うのです 人が担い 手で運べば 角々や間違えそうな場所で大声を張りあげ 亡くなった父が 道に迷うことなく 自宅に帰れると信じていたのです 日本の盆の行事と酷似していました 村にあった故事に倣ったのでしょう 母親は 亡き夫を連れ帰る時 棺桶に掛けてあげる深紅の布を織り始めます 息子は買ったらいいと言うのですが 母親はここでも頑として言うことを聞きません それと言うのも 鮮やかな深紅の布には 鮮明な思い出がありました ここまではモノトーンだった画面が 一転して 鮮やかなカラーの画面になります 

 

 母18歳 父20歳 若い両親が出逢う場面が出て来ます 村に新任の教師がやって来ると言うのです 村の娘達はみなときめいていました お婆さんと二人暮らしだった娘(チャン・ツィイー)は 新任の教師の気を引こうとします あの手この手を使うのです お昼の弁当を届けたり わざわざ遠い学校建設現場近くの井戸まで水汲みに行くことなど 村の人達は 村で最も美しいその娘に 新築されようとしている学校の胸柱に括りつける深紅の布を織らせたいと噂が流れます 娘は歓んで機を織ります 一方男達が懸命に働く学校の工事現場に 村の女の子達は挙って昼ご飯を届けます その娘も 特別な思いを籠めて 精一杯のお昼ご飯を届けますが 果たして先生のお口に入ったかどうか分かりません なかなか出逢うことが敵わない日 ようやく深紅の布が出来ます 目にも焼きつくような鮮やかな出来映えでした 

 

 間もなく学校が開校されました 新任教師は 周辺に響くような甲高い声で朗読し 子供達に教えます 「古いことや新しいことを学んで 天と地を知る 目上の人を敬え 生まれて来た以上 目標を持て 目標のない人生は無駄である 何でもメモを取れ」と言いながら 音読させるのです だがその教本は国定教科書ではなく 先生が自ら作った教本でした 娘が作った深紅の布は胸柱に鮮やかに輝いていました 娘は 学校の外で真剣に 先生の授業を聞いていました 放課後 先生は遠い地区から通う子供達を送って行きます 娘は何とかして先生に逢おうと努力します 美しい紅葉の白樺林で待ち伏せをします でもなかなか飛び出して行く勇気が出ません と 或る日思い切って 先生の目の前に飛び出しました 先生は笑いながら「名前は何て言うの」と聞きます 名前を告げた後 持っていた籠を忘れ はにかむように その場を立ち去ろうとします 同行の子供達から 思わず笑われてしまいます これが初めての出逢いでした

 

 又 先生のお昼ご飯は 村の家々に 輪番で廻って来る習慣でした ついにその娘の家が当番の日に 先生はやって来ます 家の入り口で待つ娘の顔は 特別に美しく輝いていました お婆さんは先生に告げ口をします 新築工事の時は 家では食べられないくらい美味しいご馳走を作り その青磁の器に盛って 毎日運んで行ったんですよと 先生は あっそうだった 特別に美味しかったと口裏を合わせます 嬉しそうな娘 夜再び来て貰えれば 先生のリクエストにお応えすると言う 先生は餃子を食べたいと応えます 娘は有頂天になって 精一杯餃子を作るのでした

 

 ところが先生に 町のお役所から 急なお呼び出しが掛かります この寒村にも 先生の思想上の問題があったからでしょう 第一この優秀な先生が こんな寒村に来た理由は そんな自由な思想があったからで 当時としては 体制派ではない問題教師だったのではないかと思わせます 出立の慌しい時 何も知らず餃子を作る娘の家に 息せき切って 先生が訪ねて来ます 遅くても冬休み前までは帰って来ることを告げ 別れ際先生は娘に深紅の髪留めをプレゼントします 連行されて行くように 馬車に乗って去ろうと 町へ通じる思い出の一本の道を走って行きます 娘は その馬車を追い駆けます 餃子を入れた青磁の丼を抱えて 鮮やかな紅葉の中を走ります 馬車は振り向いてもくれません 遠く遠く去って行く馬車 娘は 突然つまずいて転びます 餃子を入れた大切な青磁の器が転がって割れてしまいました 同時に彼から頂いた髪留めも 無くしてしまうのです 何度も探し歩く娘 憔悴し切った娘でしたが 何と家の入り口に ぽとりと落ちていた髪留めを ようやく見つけることが出来ました

 

 娘は吹雪が吹きすさぶ雪の大地で ただ待つしかありませんでした 何日もそうしていた娘は高熱を出して 大変な風邪になってしまいます 娘は高熱におかされても 一途に先生を思うのでした 何故冬休み前に帰って来ないのか 不安でいっぱいでした お婆さんは巡回して来た鋳掛け屋さんに壊れた青磁を直して貰います 何も言わないお婆さんのこころの温かさに 深い感謝の涙を流す娘でした 娘の思いの丈は 村長にも見抜かれてしまいます 少しよくなった或る日 娘は遠い町まで 雪で硬く閉ざされた思い出の一本道を歩いて探しに行きます ところが娘は とうとう町の入り口で倒れてしまったのです 偶々通りすがった村人に助けられます 再び高熱と闘う娘 お婆さんはこの子には先生が必要なんだと そのことを告げて貰いたいと 町に行く村人に 次々に頼みます

 

 先生が再びこの村に帰って来たのは 何とその2年後だったのです そうして二人は結婚します 教育に熱心な教師 それを支える妻 貧しくとも幸せな40年の日々でした その娘とは言うまでもなく 父の葬儀のために帰って来た息子の母親です 教師とは 彼の父です

 

 そんな二人の生活を存分に知る息子は 母親の気持ちを痛いほど分かっていました 多分たった一人の運転手によって 事務的にトラクターで運ばれて来る父親を 息子は母親とともに忍びない気持ちだったのでしょう 息子は村長に大金を払って依頼します よその村人まで動員をかけ 人手によって運ぶようにと ところがどうでしょう 遺体搬送の日 ムカシ教えて育てた大勢の 生徒だった人達が自然に集まって来たのです 遠く広州や香港 軍人や農夫や学生達 いつの間にか 葬列は長い行列になっていました 角々で大声を上げ 教え子に囲まれながら 担がれ 亡き父親は ようやく村に入り 自宅に帰れたのでした 誰もがその手間賃を受け取ろうとしません そして遺骨は学校が見える小高い丘に埋められたのです

 

 再びモノクロの現実の世界です 息子は母親に 町で一緒に暮らそうと語りかけます 母はここには父さんがいるからと言い 息子に同行することはありませんでした 父が夢に見た新しい学校が出来ると言うのです 父は 息子のお嫁さんはまだなのかと 最期まで心配していたと それから父に淡い夢がありました 息子が教師になってくれることを願っていたのです 母は残念がりましたが 息子が帰る日 幻聴かと思える音を聞きます 学校の方からです 大勢の村人も授業を参観しに来ていました よく見ると 息子は父親に負けないくらいの よく似た甲高い声で授業をしていました 「古いこと 新しいことを学んで 天と地を知る 目上の人を敬え 生まれて来たからには目標を持て 目標のない人生は無駄である 何事もメモを取れ」と 父親と同じように講義していたのです それは息子が 母親に捧げるたった一日の授業でした そしてカメラはパーンして 最後に村の風景が映し出されます 村は大きく変貌を遂げようとしていました 現代中国を暗示するかのようにです

 

 

 <映画『初恋のきた道』の評論>

  この映画の原題は『我的父親母親』です 大阪風に言えば「ワイのおとんとおかん」とでも言うのでしょうか 単なる父親の遺体を運ぶ 葬送をするだけの 単純なお話ですが 中身には様々な要素が含まれています どの家も子供はたった一人 一人っ子政策なのでしょう 国定教科書ではなく 手製の自由な教本を使う映画を撮って上映したと言う事実 自由恋愛など 歴史上未だに ただの一回も普通選挙が行われていない中国での 現代の状況です それだけに自由への渇望があるのだろうと この映画を製作した意図が凄いものだと思われました 体制は北朝鮮の独裁政権とは明らかに違うのでしょうか まだまだ閉鎖的で 山ほどの問題を抱えている中国ですが 少なくとも この映画に出て来る家族愛は素晴らしい情愛でした それを否定するような体制にだけはなって欲しくないと思いました 更に今の日本では忘れ去られつつある 家族の人情の機微を 改めて大切だと懐かしく感じました メールによる自殺サイト 援助交際 売春 殺人依頼など 目にあまる現代日本に 一本の危険予知の鏑矢を打たれた衝撃があったことも事実です 映画の前後の現実はモノトーンで処理され 思い出の部分だけ 美しいカラーの映像 見事に成功していました チャン監督は素人しか使わないと言っていたのですが もこもことした服装で可愛らしく登場したツィイーは素敵で 今や中国を代表する女優になっています まさか化粧品のコマーシャルでスタイル抜群の子だと思いもしませんでしたね そしてバックに流れる音楽も 中国伝統の音楽に新しい解釈をしていました ストレートで単純さが持つ力強さが この映画の生命線です さすがにベルリン国際映画賞の銀熊賞に輝いただけの 見事な映画でした 後にチャン監督はスーパーアクション映画などを撮ることになりますが やはりこの映画を超えるものは 未だに一本もないと思えてなりません

 

 <この他に 私が大好きな映画>

 日本映画 『赤ひげ』『麦秋』『秋刀魚の秋』『あ・うん』『しあわせの

        黄色いハンカチ』『居酒屋兆次』『二十四の瞳』『春雷』

        『雨あがる』『七人の侍』『生きる』『喜びの悲しみも幾

        年月』

 外国映画 『戦艦ポチョムキン』『去年マリエンバートで』『男と女』

        『嵐ヶ丘』『第三の男』『ライムライト』『暗くなるまで待っ

        て』『カサブランカ』『ニューシネマ・パラダイス』『ドクトル

        ・ジバゴ』『鉄道員』『自転車泥棒』『ライアンの娘』『カラ

        ーピープル』『リヴァーランズスルーイット』『季節の中で』

        『ドライビングミスディジー』『アラビアのロレンス』『ウエス

        トサイド物語』『小説家を見つけたら』『ローマの休日』

        『グリーントマト』などなど書き切れません 古い映画

        が好きなのは 父が映画のコレクターだったためです 

        ドンパチ映画は好みません

 

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