英五恋しや

 河島英五って知ってるかいって聞いても 何も知らないって言う人が多くなった ところが近頃やたらと恋しい男だ 英五は 南米ペルーやチベットやモンゴルにも 独りで平気に出掛けた しかも半端な出掛け方ではなかった 毛布とギターとバイクさえあれば どこにでも出掛ける 禅坊主のような孤高の旅人だった
 
 或る秋の日のことだ 僕が 初めて出掛けたお遍路の旅でのことである 例によって例のごとく ふらっと来た感じのいでたちの河島英五はバイクに乗っているではないか さらっとお参りを済ませて行く 当然 白装束ではない 僕は車だったが 早いのは彼のバイクの方だ どこだったか 歌声が聞こえて来る そそ高知県入って直ぐのお寺さんだった 見ると英五がお遍路さんを集めて にわかライブをやっているではないか 勿論無料だ 歌う英五! 僕はすっか魅せられてしまった この人は歌の下手な人だとしか知らなかった しかし聞いていると 凄い迫力で歌っている だみ声に近い でも地の底から 湧き上がって来るような唸り声だった 圧倒されて ただ見ていた この男は下手な人ではない この人のまごころの迫真力だった タマシイの歌だったのだ その日 それで終わった そしてどこへ泊まったか分からない 後で聞くと野宿だとその次の日 吾川だったか 昼飯を食べる時 偶々偶然に一緒になった 昨日のお礼を言う にたりと笑う英五
 
 それからしばらく逢わなかった 多分もう帰ったろうと思われ 四万十川を過ぎた頃 再び出逢った 宇和島の小さな小料理屋であった 鯛の塩焼を頼んだのを憶えている 英五はそれほどいい肴を食っているように見えなかった ただひたすら酒をあおるように飲んでいた 僕は直ぐ傍に座った その時であった 突然英五がワンワンと泣き出したのである お店の人も 英五分かっていただろう みな不思議な顔で 茫然と見つめていた すると矢庭に 歌を歌おうと叫び出した そこにいたのは それほど若い人でもあるまい だが歌い出した曲 アレは忘れもしない 『酒と涙と男と女』だった みなそれに合わせて自然に歌い出した ガチャガチャなるギター 唸るだみ声 同じ歌を何度も歌ううち そこに居た人達が 釣られて大声の大合唱になった 素晴らしい合唱だった みなそれぞれに泣いていた その後ふらりと店を出て行ってしまった 格好よかった 熱い熱い男の匂いがした 
 
 あれからしばらく逢っていなかった 阪神大震災の時だった 僕は当社の社員を大勢連れて 三宮に入っていた 慌しい切ない夜のことだ 盛んにボランティアの最中だった アレッ!再び どこかで聞いたことがある 歌が流れて来た 何じゃい!こんな時に こんなところでと 思って見あげる と 英五が瓦礫の中心に すっくと立って 歌っていた 例によって泣きながら なり叫ぶように歌っていたのだ 人々はほとんどが横目で見ながら 作をする でも中には 英五の歌に合わせて 泣き出す人もいる これこそサライズであった 阪神淡路大震災を思い出す度に それを思い出す その後 英五は大阪城ホールで 震災遺児のためのコンサートを死ぬまでやった 但し応援歌手は全員無報酬であった もう10年以上続いている そして育英基金まで 英五が作っていた どこまでもサプライズであった
 
 その後何かの縁で 懇意になってお付き合いをした 二人の娘を猫可愛がりする男だった だが早い死が 突然襲って来る 癌だ 長女あみるちゃんの結婚式の時であった 病院を 無断で抜け出し 式場に駆け付けた英五 絶対反対の結婚 ところがだ 英五はあみるちゃんと婿どのと会見した瞬間 又ワイワイ泣き出して 娘をよろしくと伝えた 更にあみるちゃんには いい男だなと伝えてくれと言っている オノレの死期を悟ってのことだった そうしてその翌月の4月 櫻の花が終わり掛けていた時 河島英五は他界した 享年48歳であった 葬送の時 そこにいた全員で 亡くなる2日前にリリースした『旧友再会』の大合奏で 送った 奈良秋篠の自宅から出棺したのである 今はただ静かに 奈良市内の十輪寺に眠るが 生きているうち ずっとずぅっと熱い男だった 泣き上戸で大酒飲みの英五を 誰でもいい 偶には 思い出してやってくれぇ!
 
 
野風増                  地団駄      
 
お前が20歳になったら           たそがれて行く街 摩天楼の影 
旅に出るのもいいじゃないか        駅前ビルの壁 染める夕陽   
旅発つ朝は 冷酒を干して        やさしさ色につつまれていく   
お前の門出を 祝うのさ・・・・・・      街を行く人も・・・・・・・・
 
 
酒と涙と男と女             ほろ酔いで                
 
忘れてしまいたいことや           哀しみはいつだって           
どうしようもない寂しさに           幸せな日をえらび             
包まれた男は                風のように あらわれて        
酒を飲むのでしょう・・・・・・・・・・      夢のように 消えて行く・・・      
 
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